ここしばらく、カナダの文化人類学者エリザベス・フィッティングの
『壊国の契約』という本を読んでいる。
NAFTA下のメキシコで起きた米国製遺伝子組み換えトウモロコシ販売
をめぐる「新自由主義コーン体制 vs 現地農民」の戦い。
トウモロコシは本来メキシコ人にとって、ただの「売り物・ビジネス」
ではなく、メキシコ人をメキシコ人たらしめてきた文化の象徴であり、
アイデンティティそのものであったということが、
植民地時代からの混血の歴史、穀物の歴史と共に、文化人類学の観点
から詳しく解説されている。
新自由主義体制・グローバリゼーションによって、メキシコが、
なにより大切な「メキシコ」を売り渡してしまったことが本当によく
わかった。
メキシコの農民は
「国境を越えアメリカの低賃金労働者となって、浮遊した若者」と、
「国境越えができないのでトウモロコシで自給自足するしかない孤立
した高齢者」とに分断され、
農業にまつわる知恵や技術は伝播されることなく失われていっている。
国境越えの《自由》を得た人は、引き換えに、技術もなく訓練も受け
られない存在となり《使い勝手のよい労働力》として搾取される。
一連の戦いで「新自由主義体制派」と「自国のトウモロコシ保守派」
との間で応酬されたスローガンも紹介されているのだけど、
その中には、保守派の言葉を巧妙に飲み込んで、国民を騙す方向へと
誘導するような文章が仕込まれていたりもして、勉強になった。
近いうちに、ライジングでも書いておきたい。
しかしこの本を読んでいたら、NAFTAを見直すということならば、
そりゃしっかり見直したらどうか、メキシコ、自国を立て直す時が
来たと思って再交渉がんばれ! と言いたくなった。
そしてアメリカ、移民の原因を冷静に考えてみようよ…とも。
しかし、トランプ安倍会談の、キスする5秒前の恋人の間合い、
みたいな映像にうっとりしている日本人は、
(私には合気道『片手持ち二ヶ条』の間合いに見えるんだけど…)
そういった「中身」の大事な話は、まったくどうでもよくなっている
みたいだ。
「トランプさんと5回連続でご飯食べたの」
「トランプさんの別荘に2連泊したの」
「トランプさんと18ホール回ったあと、また9ホール回ったの」
「トランプさん、安倍さんのことツイッターに8回書いてる」
って、つきあいはじめの彼氏の愛情度合いを具体化して確かめて
気持ち盛り上げたがってる乙女の女子トークかっつの!
「うそお すっごい濃密ぅ それもう絶対愛されてるじゃあーん」
「だよね、やっぱりそうだよね? 北朝鮮のミサイル飛んできたのが、
トランプさんと一緒にいる時で本当によかった 安堵感すごいの」
日本のメディアにはこんなトークばかりが溢れているんですよ。
わたし、すごく恥ずかしい…。
「トランプ大統領の移民政策を諫めるのは、内政干渉にあたり、論外」
と言っている安倍提灯経済学者がいたけど、
内政干渉でんでんの前に、『われわれ日本は、こう考えている』という
確固とした主体性を持てずに、ただただ保護を求めてトランプ大統領と
夜を共にしていることを賛美してるほうがよっぽど「論外」な話だと思う。
トランプ勝利からしばらくは、ひたすら「トランプは得体が知れない!」
「恐怖の保護主義!」「差別主義者!」なんて取り沙汰してギャアギャア
怒ってケチをつけまくっていたのに、
コロッと寝返って「トランプさんって素敵なひとよね」なのだから、
やっぱりメディアで重宝される知識人って「その時の流れに乗って話を
盛り上げる知識のある人」でしかなく、つまりはまったく本気ではない、
「日和見専門家」なのかなと思ってしまう。